「手塚治虫」1番の名作を挙げるとしたらコレ!

burakkujaku
手塚治虫の名作と言えば、やはり「ブラックジャック」だと思います。当時の日本で、医者を題材にした漫画を描き始めたこと自体すばらしいと思いますが、作品の構成・物語の展開と意外な結末、何より医者が主人公の物語でありながら、テーマはヒューマニズムであるところに大いに共感を覚えます。

大抵の人の印象にあるのは、「法外な費用をとるモグリの医者」ということだと思いますが、そこに一見気づきにくい精神態度ー作家自身が伝えたいメッセージがあると思います。

つまり、(ときおりストーリーの中でも見え隠れしますが)、依頼主自身が「どこまで本気なのか」「どれほどその患者を思い、ひいては命を救うことを願っているか」が、お金の額を提示されて最初は戸惑うものの、覚悟を決めて受け入れるか、あきらめるかに表われいると思います。

結局のところ、ブラックジャックは単なるお金の亡者ではなく(本人がそう言っている場面もありますが)、生きたい・命を救いたいという人間の本性を見据える人物であり、それは稼いだお金で島を買い、自然を残そうとする行為にも表れていると思います。弱肉強食の動物界とは異なり、人のためになりたいという人間の美しい特質と、それに相反するエゴイズムとのはざまで揺れる人間の感情や駆け引きを、この「法外な治療費」のテーマのもとに見事に描いていると思います。

別の点として、今でこそ主流になっている、「各ストーリーの簡潔と同時に全体を貫いて流れていくより大きなスートリー」の手法をすでに確立しているところが、手塚氏のすごいところであり、この漫画を魅力あるものにしている要因だと思います。

幼い時に母を失い、自身も奇跡の回復以外の何ものでもない身体的・精神的ダメージを受けた過去の出来事がときに回想され、またそれに基づく事件や復しゅう劇は、読者をマンネリから守る効果的な方法だと思います。

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ピノコ

ピノコ
また生きることの大切さを強調する部分として、ピノコの存在を忘れることはできません。

彼女の誕生秘話やブラックジャックを必死に支える助手としての働き、同時に「18歳」としての生活を送りたいもののそれができない切なさ、などは、ブラックジャックの完璧な医療技術とのギャップを織り込みながら、生きてゆくことの大切さ、しかしそれは決して簡単なことではない、という作者のメッセージを伝えていると思います。

「命」に関していえば、さらにドクターキリコの存在も大きいと思います。彼も、単なる「非道な殺し屋」ー漫画によく登場する悪の存在などではなく、人の助けになりたいという優しさや真剣さが、戦争時の体験によりゆがめられ、本人の中で正当化され現在に至る、本来は正義感あふれる医者だと思います。

深く読み込むと、ある意味ブラックジャックと同じ理念を持っていますが、その表し方が全く対照的であるゆえ、味方でもなく、しかし敵でもない、見ていて趣きのある二人の対峙、そして絶妙なパートナーである、と考えさせる心理作用を及ぼす作者の巧みさには絶望です。
ドクターキリコ

命と死を常に見つめさせる、ともすると悲壮感が全面に押し出されるストーリーですが、それを緩和させるのが、前述のピノコしかり、同じ顔や性格を持ちながら各ストーリーごとに違う味を出す、いわば「役者」たちであると思います。

彼ら(またはそれら)は、手塚氏の他の作品にも数多く登場し、それゆえ手塚ファンにとっては、他作品での役回りとの類似点や相違点を想像し、まさに「手塚ワールド」の中に没頭できるのだと思います。

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ブラックジャック自身の人間性といいましょうか、人に心を打ち明けず、人を寄せ付けもしない立ち振る舞いの中にも、優しさや温かさがあるのも、この漫画の魅力のひとつだと思います。

その点では、彼はぶっきらぼうではあるものの、決して鈍感ではなく、男女の関係における感情や雰囲気を機敏に察知し、また相手への気遣いから身を引くー紳士的なそうした一面が、ブラックジャックを大いに好感のもてる人物に仕立て上げていると思います。

各スト―リーの「あらすじを教えてください」と言われると、それぞれ十数秒で説明できるような単純なものがほとんどですが、そのありふれた活動・出来事の中に、人間性や環境問題、死の瀬戸際での人の示す反応の違い、さらには自身の過去をどう背負い、未来へつなげてゆくか、といった精神論さえも織り込み、かつ複雑にせず、子どもでも理解できる内容にまとめ、ユーモアも織り交ぜるーそのすべてがしかも医療の現場という場面設定でなされているわけですから、名作中の名作であり、これを超える漫画はないと思います。

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